全通研が、いま大切にしたいこと

全通研から周知依頼がありました。長文ですが、ぜひお読みください。

そして、アイデアやご提案があれば、コメント欄に入力してくださいね。お待ちしています。


ワクチンや治療法が確立されていない新型コロナウイルス感染症が全世界で広がる中、日本では、4月16日に緊急事態宣言が発令され、全国でさまざまな場面で行動が制約されるなど、国民の暮らしに大きな影響を与えています。
このような状況の中で、地域におけるろう者の暮らしや手話通訳制度の向上のために努力を続けている各支部/会員の奮闘に心から敬意を表します。
緊急事態宣言は、5月25日に全国で解除されましたが、政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」によりますと、感染拡大防止の取り組みは長期化が見込まれ、生活様式も変化を求められています。
その一方で、医療場面における遠隔手話通訳の導入、知事や市長の記者会見での手話通訳配置において急速な進展などが見られます。これらの変化に、全通研会員の多くが関わっていることを全国からの報告で知ることができ、たいへん心強く感じています。

このような状況を踏まえ、全通研として、いま大切にしたいことを皆さまにお伝えします。

1 感染症と手話通訳
感染症に関わっての手話通訳については、「感染症に関わる医療場面における手話通訳についての見解」(2020年3月6日付/三団体連名で公表)で明らかにしています。
この中で、「聴覚障害者の情報保障の必要性」、「手話通訳者の感染防止の必要性」、「事前情報提供の必要性」の3点を柱として掲げました。これは、「ろう者の医療保障」、「(ろう者の医療保障に際しての)手話通訳者の感染防止」、「これらのために必要な行政からの情報提供」について必要性を確認する、ということです。
この3点は、今後の新型コロナウイルス感染症の拡大や別の感染症の発生の場合においても有効な指針になると考えます。同時に、今後の活動を実行するときの重要な立脚すべき視点になっています。

2 全通研の活動
2020年のサマーフォーラムや全通研アカデミーなどの事業を次々と中止せざるを得ませんでした。全国の仲間が集い、地域の取り組みを議論し、学びや交流を深める大切な場である集会に参加できないことを残念に思っている会員も多いことと思います。
これまで53年間続けてきた全国手話通訳問題研究集会は、長い時間をかけて実行委員会でさまざまな企画や準備を進めていただいただけに、開催を中止することは痛恨の極みであります。
また、各支部においても、特に集会や会議等について大きな制約を受けています。これまでも大きな自然災害の発生により、支部単位で大きな影響を受けた例はありましたが、全国的な規模での事業制約は全通研創立以来の経験であり、各支部の運営を担う会員は、大きな不安を抱いていることと思います。
このように今までに経験したことのない状況において、支部として、会員として、手話通訳者として、手話講習会や学習会の講師として、何らかの行動を選択することを迫られる場面があり、判断に思い悩むこともあったことと思います。
私たちの学習や活動が何を目標としてきたのか、仲間や地域の人たちと一緒に再度考えてみることが重要です。
約50年前に全通研の創立に携わった諸先輩たちも、現在の私たちと同様に悩みながら歩んでこられたのではないでしょうか。手話通訳について、社会の理解も乏しい中、わずか200名ほどの仲間が全国組織を立ち上げ、活動を開始したわけです。
設立当時に彼らを支えた思いは、第5回全国手話通訳者会議(1972年)の決議文を見るとわかります。この中には「ろうあ者の生活と権利を守る基本的立場において通訳活動の実践と取り組みます」、「通訳活動の実践を通じてろうあ者問題の認識を深めそれをより多くの人々に広めます」、「常にろうあ運動と連帯し、手話通訳保障の実現に努めます」、「手話通訳者の身分保障、活動保障を実現させるために努力します」とあり、ろう者の生活と権利を守ること、手話通訳実践・社会啓発・手話通訳者の身分保障に取り組むことを掲げています。これらは、「1」で記した「見解」の視点と共通し、全通研の基本的な視点であるといえます。

新型コロナウイルス感染症が収束していない現在、全通研の活動はさまざまな面で制約を受け、この状況は当面継続すると考えられます。
このようなときに私たちに必要なのは、設立以来の考え方である「ろう者の生活と権利を守る」、「手話通訳実践・社会啓発・手話通訳者の身分保障に取り組む」をしっかりと保持して対応することではないかと考えます。
全通研は、各支部と共に、この姿勢を堅持し、社会への働きかけに引き続き取り組んでいきたいと思います。

3 今後に向けての基本的な視点
(1)あらためて手話通訳制度の確立をめざす
現在、新型コロナウイルス感染症に影響が残る社会の中で、ろう者・手話通訳者に関わって生じている問題(例:ろう者の情報保障のあり方、手話通訳者の感染防止など)の根本にあるのは、「全通研がめざす手話通訳制度」ですでに明らかにしたとおり、手話通訳制度の脆弱さです。
阪神淡路大震災をはじめとして、巨大な自然災害が発生するたびに、高齢者や障害者がより多くの被害を受けたり、あるいは福祉ニーズが顕在化したりすることが明らかになりました。その原因として平常時の高齢者や障害者を支える制度の弱さが指摘されています。
新型コロナウイルス感染症は自然災害ではありませんが、ろう者のいのちや暮らしを守るために必要な「丁寧な支援の実践や的確な情報提供/入手」、「そのためのしくみや人材」が十分な地域がほとんどないという状況は、これまでの自然災害発生時に経験したものです。
現状を踏まえ、今後、予想される第二波の発生までに、各地域での課題を明らかにして、身分保障のない登録手話通訳者の派遣が中心の制度ではなく、自治体職員や正職員として雇用された手話通訳者が中核を担う手話通訳制度の確立に向けて取り組むことが必要だと考えます。

(2)組織の維持発展をめざす
「聴覚障害者福祉と手話通訳者の社会的地位の向上」を目的に掲げ、そのための取り組みと発信を継続する全通研の活動は、このような状況において貴重であり重要性は高まっていると考えます。
先輩たちの熱い思いと社会的な必要性から生まれた全通研の活動は、他に類のないものであり、このような状況の中でも維持・発展をめざす意義があります。遠隔通信ソフトの活用など新しいしくみの積極的な導入を含め、活動が制限されている状況ではありますが、全通研の存在の重要性を会員相互で共有し、全国の仲間一人ひとりとしっかりつながる方法をみんなで考えていきましょう。
不安に思っている地域のろう者や手話に関わる人たちの声を丁寧に聞いて私たちの活動に反映させましょう。私たちには全国に多くの仲間がいます。知恵と力を結集し全通研のますますの発展をめざして共に取り組んでいきましょう。

2020年6月10日
一般社団法人全国手話通訳問題研究会理事会

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